広島高等裁判所 昭和25年(う)879号 判決
原審第三回公判調書の記載によれば本件第一審の第三回公判期日である昭和二十五年九月十九日に被告人崎新谷は出頭したけれども、同人の国選弁護人渡辺伍は出頭しなかつたことが認められることは論旨に指摘の通りである。然し乍ら原審各公判調書の記載によつて明らかなように原審における本件の審理は第一、二回公判を以て終結し、前記第三回の公判は単に判決宣告の為のものであつて、当日予定通り判決の宣告はなされなかつたけれども、判決宣告期日を九月二十八日に変更された丈で、事件についての審理は全然なされなかつたものである。刑事訴訟法第二百八十九条第一項は「死刑又は…………事件を審理する場合には弁護人がなければ開廷することは出来ない。」と規定し判決宣告のみの為の公判の如きは弁護人の出頭なくして開廷しても何等被告人の訴訟上の権利を害するものでない趣旨を明らかにしているのであるから、前記第三回公判を被告人崎新谷の弁護人の出頭なくして開廷したことは同条項に違反するものではない。
そして右判決宣告期日の変更については原審裁判官は被告人の意見を聴き、被告人は「然るべく御願い致します」と述べて居ることは右三回公判調書の記載により明瞭であるから公判期日の変更には予め(検察官の外に)被告人又は弁護人の意見を聴かなければならないとする刑事訴訟法第二百七十六条、刑事訴訟規則第百八十条の規定にも違反しないこと勿論であるから、右第三回公判を被告人崎新谷の弁護人の出頭なくして開廷したことには結局何等所論のような違法はないと云わねばならない。